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骨盤と腰痛

腰痛と骨盤の関節

腰痛になると、腰の骨(腰椎)に異常があるのでは?と考えると思います。実際に整形外科に受診すれば腰(腰椎)のレントゲンを撮り診断します。しかし腰痛の原因で多いのは腰の骨では無く骨盤の関節(仙腸関節)に原因があることの方が多いのです。
 

しかし骨盤の関節の異常はレントゲンなどの画像検査では分かりません。それは骨盤自体の変形や大きな歪みでは無く、重心バランスによる骨盤の傾きによる筋筋膜の張力バランスの不均衡や、骨盤の関節のストレスからくる骨盤の関節を取り巻く結合組織(筋膜や靭帯)の損傷・変化・炎症によるもので、それらは画像検査では確認することができず見逃されてしまうのです。

ここでは骨盤の関節の動き、骨盤の安定性、ストレス要因、体操法などを詳解します。

骨盤

骨盤は、左右1対の寛骨(かんこつ)仙骨(せんこつ)尾骨で構成される。これらの骨はいずれも成長とともに癒合したものです。

  • 寛骨 : 腸骨、恥骨、坐骨が17歳頃に一体化して1個の寛骨となる。
  • 仙骨 : 5個の仙椎が癒合して1個の仙骨となる。
  • 尾骨 : 3-6個の尾椎が癒合して尾骨となる。数は不定である(個々人で異なる)。
    骨盤で最も重要なのが二つの寛骨が仙骨を挟み込むように構成された関節の仙腸関節(せんちょうかんせつ)です。        

骨盤の動きと仙腸関節

骨盤の関節を仙腸関節(せんちょうかんせつ)と言い逆ハの字型(上の写真の赤線部分)の形状をしています。解剖学的には不動関節(動かない関節)とされていますが、実際には前後方向に3ミリから5ミリ程度(前方・後方回転に動く)動きます。非常に少ない可動域で余り大切な部分では無いと思われるかもしれませんが、スムーズな歩行運動、バランスの調整、上半身の荷重の受け皿などとても重要な関節なのです。腰の要(かなめ)は腰の骨では無く上半身の土台となる骨盤が最も重要で、その土台を安定させている仙腸関節が腰の要となるのです。
 

骨盤の関節は前後方向に微細な回転運動をするが、骨盤に緩みが生じるとスムーズな動きができなくなる。骨盤関節の動きは少ないが歩行や身体のバランス調整など重要な働きをしている。

最近、骨盤の歪み(ゆがみ)や傾きなどの言葉を耳にしますが、骨盤自体が大きく歪むことは無く骨盤の関節である仙腸関節も強力な靭帯に覆われているために大きく歪むことはありません。
 

しかしこの仙腸関節は不良姿勢や変則荷重などでストレスを受けやすく、仙腸関節への持続的なストレスは仙腸関節を取り巻く結合組織(靭帯や筋膜)の緩みや緊張を生じさせ仙腸関節の不安定性や潤滑不全(関節の動きが悪くなる)を引き起こします。

そして仙腸関節の周辺を取り巻く結合組織がストレスにより損傷すればギックリ腰、急性腰痛を発症するのです。仙腸関節の異常は土台となる骨盤全体を不安定な状態とし、それを補うため腰部の筋群も緊張を強いられ腰部筋群にも影響し痛みの原因となります。

荷重による骨盤の安定性

三方向の挟み込みにより骨盤は安定し、更に歩くことで仙腸関節の潤滑性もたかまり滑らかな動きとなる。

右の図は立った姿勢での骨盤です。骨盤の安定性は上半身の背骨からの荷重(真ん中の矢印)と両側の股関節からの抗力により真ん中にある仙骨(三角形の部分)を三方向からの力で挟み込み安定するようになっています。
 

この安定性は立位で最も働き、さらに歩くことで左右の骨盤は前後に左右交互へ動き関節の安定性や潤滑性(すべり)が高まる様にできています。従って長時間の座位姿勢(車の運転など)や自転車での移動が多く余り歩かない方は骨盤の安定性や仙腸関節の動きが悪くなる傾向になります。

また捻挫の後遺症や歩行の癖などが有る場合、片側荷重になりやすく荷重が負荷が十分に掛からない側(痛みなどで掛けれない等)の仙腸関節が不安定になりやすい傾向にあります。

片足立ちなどしてバランスを取りやすい方が支持側で取りずらい方が不安定側(ゆるみ側)の傾向となります。不安定側は骨盤に脚がぶらさがった状態となり骨盤をゆるめる方向になり腰痛やシビレの原因となります。


朝起き掛けに腰が痛く、動いていると痛みが和らぐ様な腰痛は骨盤の不安定性が原因であることが多いのです。それは夜寝ている時は荷重が掛からないため、不安定側の骨盤(仙腸関節)はより不安定要素が強くなるからです。そして起きて動くことで荷重により骨盤がある程度安定(閉まる)するので痛みが和らぐのです。

不安定性からの腰痛を早く改善するには寝ているより座ること、座っているより立つこと、立っているより歩くことが大切になるのです。腰が痛むのは直立二足歩行による腰への負担が大きいためではなく、歩くことが少なくなったために起きる不安定要素が原因であることの方が遥かに多いのです。腰のために歩くのなら、何も持たずに姿勢を正し、やや歩幅を広げて歩く事が効果的です。

片側荷重と骨盤の傾き

「骨盤が傾いているから、それが腰痛の原因だ」だから骨盤矯正しましょう というような宣伝文句を最近やたら見かけますよね。しかし骨盤が傾いているから骨盤矯正をすれば良いと言う物ではありません。骨盤の傾きは殆んどの場合、骨盤自体が歪んでいる訳では無いからです。
骨盤の傾き=骨盤の歪み=腰痛という事では無いのです。

骨盤の傾き=片側荷重=腰痛という事の方が圧倒的に多いのです。

上の写真の左の図は立位での正常な骨盤を後ろから見たものです。右の図は左膝が痛む時の体重バランスによる骨盤の傾きを表しています。赤丸は仙腸関節

片側荷重と腰痛

写真Aは正常な骨盤位でBの骨盤は傾いた状態です。実際はこんなに大きく傾いていませんが、わかり易いように誇張しています。Bの骨盤の右は支持側で左は非荷重側になります。
左側は荷重負荷が十分でない為、右側の荷重側に引き上げられるように骨盤は右傾斜に傾きます。このバランスの崩れた姿勢は骨盤の安定性でお話ししたように、骨盤は三方向の過重負荷により安定させるという事から逸脱し、骨盤のバランスが不均衡となり不安定な状態となるのです。三方向からの圧縮力の関係が崩れ、骨盤の右傾斜により左側は非荷重状態となり関節が緩む方向となります。また更に引き上げられた左足の重さが仙腸関節を引き離す方向へとストレスを与えます。

そのため仙腸関節周りを取り巻く、結合組織(靭帯や筋膜)がストレスを受け緩みや緊張を生じさせ炎症または損傷を招き腰痛を発症させることになるのです。また仙腸関節以外にも骨盤を引き上げる側の筋肉(主に中臀筋)は骨盤を引き上げる為に持続的な緊張を強いられため、反対側の腰痛の原因になります。

左側の赤丸は仙腸関節の圧痛エリア 右側は骨盤を引き上げる側の圧痛エリア

片側荷重に成り易い要素
  • 膝の痛み、魚の目など脚に痛みの症状が有る
  • 過去に捻挫やギックリ腰などを経験したことがある
  • 歩き方などに癖がある
  • 仕事やスポーツなどで偏った使い方をしている
  • 脚を組むのが癖になっている

骨盤(仙腸関節)がストレスを受けやすい姿勢

仙腸関節にストレスの大きい姿勢

良くある悪い姿勢の一例ですが、イスにもたれ掛る様に座る猫背の姿勢です。この様な姿勢は骨盤を回転させ仙腸関節に大きなストレス(赤丸部分)を与えます。また尾骨(青丸の尾っぽの部分)がイスにあたり下から突き上げる形となり仙腸関節を緩める方向にストレスを与えます。長時間このような姿勢でいると写真の赤丸部分に痛みを誘発します。それが習慣になれば仙腸関節は不安定になり腰痛を起こしやすくします。

 

仙腸関節にストレスの少ない姿勢

良い姿勢で座るには坐骨結節(黄丸)に体重を乗せて座る様にします。坐骨結節部分で座る事で尾骨もイスにあたらず、仙腸関節は安定し背骨も伸び関節に対しストレスを最小限にします。注意するのは背中を伸ばしす過ぎて腰が反り過ぎる事です。反り過ぎると腰や背中の筋群が緊張し過ぎてしまいます。うまく座るには一度背中と腰を反れる所まで反らしてから力を軽く緩めます。その時、腰や背中の筋肉に力が入らずに関節で支持されている感覚で座る様にします。

自分で出来る傾向と対策

荷重側と非荷重側

写真1.

写真1.は身体の重心線はほぼ中心に位置しています。片足立ちでも状態は安定し静止状態を保つことができます。

写真2.は身体の重心線は右側にシフトしています。そのため左で片足立ちをすると左に体重が乗らず上手く片足立ちができません。

この様な身体の重心線が大きく中心から外れていると左右の荷重バランスが崩れ、骨盤の傾きが生じます。この傾きは骨盤が歪むことで起きるのでは無く重心位置のシフトによる荷重バランスの不均衡による傾きです。

写真2.

荷重側と非荷重側をみた場合、荷重側は荷重負荷により仙腸関節も安定していますが、衝撃などによる損傷を起こしやすくなりますが、問題を起こしやすいのは荷重側より非荷重側にあります。写真2は右脚が荷重側で左脚が非荷重側となります。

非荷重側は荷重負荷が少ないため仙腸関節の適合性が緩く不安定な状態となります。その事で股関節、膝関節、足関節の不安定要因ともなり、損傷を招きやすくなります。また筋・筋膜の運動性も低く、非荷重側の支持力は全体に低下し様々な症状を引き起こし易くします。

一般的に言われるような荷重の負担により腰や膝が悪くなるのでは無く、実際は安定性を欠いた非荷重側に痛みや損傷による症状が多いのです。人の身体は荷重運動により筋膜・筋肉・骨の代謝の促進・血液循環の促進、軟骨などの栄養供給など代謝の促進、支持力の安定性を保っているのです。しかし非荷重側では、これらの生理性が低下するため様々な症状を引きおこす原因となるのです。

この様な中心軸のシフトによる片側荷重は日常生活、歩行の癖や過去の負傷歴など様々な要因が有ります。片足立ちでの検査は傾向をみるもので確定診断ではありませんが、片足立ちが上手く出来ない方を重点的にできるようにすることは重心軸を安定させるのに有意義な運動となります。

※高齢者の方などは危険ですので、必ず安定した柱などにつかまって行なってください。

歩行と骨盤の動き

写真は歩行時の骨盤の動きを誇張したものです。

骨盤を安定させる運動で最も効果的なのは歩行です。歩行での骨盤の動きは、前方へ脚を振り出したとき骨盤は後方に回転し、後方へ脚が引けた位置で骨盤は前方へ回転します。この骨盤の動きは左右で反対の動きになり右が前方回転のときは左は後方回転することになります。この様な歩行時の運動により骨盤の仙腸関節は滑らかな運動(潤滑)と荷重負荷による安定性を保つことが出来るのです。

しかし荷重バランスが片側になっている場合、歩行にもその要素が表われます。身体の重心線が右にシフトしている場合、左側の骨盤は緩みの傾向となり、左脚の振り出しが小さく歩幅が狭くなります。左に重心線がシフトしていれば、逆に右足の振り出しが小さい傾向になります。

歩行をするときは赤矢印の部分までが脚であることを意識して歩くことで、歩幅も広がり、骨盤の運動性も高まる。

この様な片側の歩行は無意識でおこなっているので、自分ではなかなか確認することは難しいのです。自分で、どちら側の骨盤が緩みの傾向にあるか確認するには、前述した片足立ちによる検査や普段どちら側の脚を歩き出しや階段などの昇降で先に出すか等でおおよその傾向が分かります。

傾向としては片足立ちがやり易い方、歩き出しで先に出る脚側が荷重側となり、反対側が緩みの傾向にある非荷重側になります。

歩行をする時は、緩みの傾向にある非荷重側の脚を先に出し、脚の振り出しをやや大きくとるようにしましょう。歩行時に注意することは足先がまっすぐ前を向くように歩行する事です。また脚は足底から股関節まででは無く(写真の青矢印)、足底から骨盤の上まで(写真の赤矢印)が脚であることをイメージすることで歩幅も広がり、骨盤の運動性も高まり効果的な歩行ができます。

骨盤(仙腸関節)を安定させるスクワット法


※スクワットは骨盤を安定させぎっくり腰の予防に効果があります。痛みが強い場合は、痛みが和らいでから行なってください。

スクワットによる運動法は色々やり方がありますが、ここで紹介するスクワット法は腰の筋肉を鍛える物ではありません。仙腸関節の剛性と潤滑性を高め土台である骨盤の安定性を高める方法です。意識するのは腰の筋肉ではなく骨盤と股関節・太ももの筋肉です。やり方を間違えると十分な効果がでないばかりか返って身体を痛めることになるのでご注意ください。体力には個人差がありますので二つのスクワット法をご紹介します。

スクワット法(スタンダード)

スクワット法のスタンダードを正確におこなうには、ある程度の身体の支持力が必要になります。支持力の弱い人は後方への転倒する危険もあり、最初は柱などにシッカリとつかまりながら行なう事をお勧めします。

  1. 腰や背中を反らさない程度に真っ直ぐ立ち頭は紐で吊るされているイメージ持ちます(目線は下を向かず正面を見る)。両手は前方に伸ばし、足は肩幅よりやや広めに開きます。この時注意するのは足のつま先を開かず正面に向けてください。同時に膝も内股や外股にならないように、足のつま先と膝が真正面を向くようにします。特に膝が悪い人はこの事をしっかり守ってください。
     
  2. 息を吐きながら腰をユックリと降ろします。この時に膝だけ先行せずに股関節も意識して膝と一緒に徐々に曲げていくのがポイントです。身体はなるべく前傾しないようにし、両膝は平行(内股外股にならないように)に保つようにしてください。
     
  3. この位置まできたら2~4秒ほど姿勢を保ちます(理想は股関節90度膝関節90度まで降ろす)。注意するのは膝がつま先から前になるべく出ないようする事(写真3の赤線)と踵が浮いていないかチェックしてください。正しく行われていれば太ももにかなりの力がはいっている筈です。息を吸い再び息を吐きながら腰を上げていきます。
     
  4. 腰を上げる時も急がずゆっくり上げていきます。
     
  5. 完全に起き上がったら膝と足のつま先が最初のように前方を向いているかチェックし再びスクワットを始めて下さい。筋力運動が主体では無いので回数は2~5回程で十分です。ゆっくり正しく行えば結構な運動量に感じる筈です。
高齢の方・足腰が弱い方のスクワット法

※安定した丈夫なイスなどで必ず行なってください。
※高齢者の方は必ず補助の方が付いて行ってください。

  1. 丈夫なイスなどに腰掛け、姿勢を正し(イスの高さは40㎝位が効果的)肩幅ほどに足を開きます。膝と足先が必ず正面を向く様にします。座る位置は余り深く腰掛けずに浅めに腰掛けます(深く腰掛けると立ち上がる時に身体を前傾しないと立ち上がれないため効果がでません)。手は膝の上に必ず置きテーブルやイスを支えにしない事。立ち上がる時は頭が紐で吊るされているイメージで真上に立ち上がります。
     
  2. ゆっくりと立ち上がり身体をできるだけ傾かない様に注意します。立ち上がる時に膝同士をくっ付けて立ち上がる内股傾向の方がいますが、膝は閉じないよう両膝が平衡を保ったままにします。
     
  3. 立位になる時は背中を最後まで伸ばした姿勢まで立ち上がります。
     
  4. ゆっくり腰を下ろし始めます。この時腰をドスンと落とさないようゆっくりと静かに降ろすのがポイントです(4から5の部分が一番力を必要とし、太ももが辛くなりますが最も重要な部分ですので頑張ってください)。
  5. 座位姿勢に戻ったら姿勢や膝、足先の向きをチェックし再びゆっくりと立ち上がります。このスクワットを3~5回ほど繰り返してください。
     

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