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脊柱管狭窄症

治らないのには理由がある

腰部脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症と診断された方へ

脊柱管狭窄症と病院で診断されたら、

「手術しなければ治らないのか?」

「このまま歩けなくなるの
ではないか?」

と悩まれているのではないでしょうか?狭窄症と診断され方、手術を勧められている方、治療の成果が思わしくない方、手術したにも関わらず改善しない方、脊柱管狭窄症の事でお悩みならば是非、御一読ください。

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症という病名を最近、非常に良く耳にします。腰部脊柱管狭窄症とは北米脊椎学会による臨床学会によれば「腰椎において神経組織と血管のスペースが減少することにより、腰痛はあっても無くとも良いが、臀部痛や下肢痛が見られる症候群」と定義されています。簡単に言えば腰の骨の中を通るトンネルやトンネルノ出口あたりが狭くなり、そこを通る神経や血管が圧迫される事で腰は痛い人もいれば痛くない人もいますが、腰痛自体は重要な要素では無く主にお尻や足に痛みがでて、それに伴う症状がいろいろでる疾患ということです。

脊柱管狭窄症は手術しないと治らないのか?

なぜか手技療法で良くなる人がいる?

なの脊柱管狭窄症は血管や神経の通り道であるトンネル状の管が詰り腰痛・臀部痛・坐骨神経痛などによる足の痛み、シビレの症状がでます。しかし脊柱管の中が詰まって起きる症状にも関わらず手技療法で改善される方もなぜか大勢います。

脊柱管が詰まる原因としては主に退行性変化(誰にでも起きるいわゆる老化現象のこと)による椎間板の膨隆・黄色靭帯の肥厚・変性すべり症などが原因とされています。これらは加齢による不可逆性(もとに戻る事はない物)のものです。この様な原因因子が年齢とともに酷くなることはあっても手技療法で元に戻る事は年齢を若返らせる様なもので不可能な筈です。しかし、それらが原因のはずなのに実際に手技療法で痛みが改善されることが非常に多いのです。

それはなぜか?
手技療法で脊柱管を広げたり、狭窄部を無くすことは勿論できません。しかし手技療法で改善される方が多くいるのです。なぜ改善されるのか?簡単にいえば原因が神経や血管の絞扼(締め付けられる)による物では無かったというだけの事です(狭窄部位とは無関係)。

もちろん狭窄症と診断されたすべての方がこれに当てはまる訳ではありません。狭窄症にはタイプがありますが、重要なのは画像所見によるタイプ分類ではなく症状となるのです。そして症状により手術を行なう必要が無いもの(手術しても改善されないもの)、手術を考慮しなければならないもか大半は区別ができるです。しかし殆んどの場合、手術の必要性はありません。原因は狭窄部位では無く他にある場合の方が圧倒的に多いからなのです。

タイプよりも症状が重要

狭窄症の三つのタイプ

  • 馬尾型  脊柱管の中央部分が狭くなっている
  • 神経根型 脊柱管から脇に出る出口が狭くなっている
  • 混合型  中央も出口も狭くなっている

赤色の部分が狭くなる馬尾型・青丸の出口部分が狭くなる神経根型・両方とも狭くなる混合型の三つのタイプに画像所見で分けることができるが、症状と一致しないことが多い。

この様に三つのタイプ別に分けることができます。これらをMRI等の画像所見で検査する訳ですが、画像の所見による狭窄の程度が症状と一致しない事も多く、中には酷く通り道が狭くなっているにも関わらず無症状の人もいるのです。

脊柱管が狭窄(狭くなる)するのは特別なことでは無く年齢と伴に誰でも多かれ少なかれ狭くなるのです。狭窄症の一つ原因となる椎間板膨隆は80歳までに80%の人にみられるのです。ですからある程度の年齢になり画像検査をすれば誰でも多少なりと狭窄はしています。
加齢現象=狭窄=病気では無いのです実際は画像所見よりその人の症状が重要になるのです。

タイプ別の症状
  • 馬尾型  膀胱直腸障害・下肢筋力低下・性機能障害・臀部、会陰部の異常感覚 
  • 神経根型 下肢の疼痛 
  • 混合型  馬尾型と神経根型の混合症状  

馬尾型の症状は、神経の麻痺を表す症状で、神経根型は痛みを主訴とするものになっています。これらの症状を神経生理学的に診れば、神経の絞扼症状で現れるのはシビレや痛みでなく麻痺症状なのです(詳しくはここをクリック)。ですから馬尾型や混合型は膀胱直腸障害の様な麻痺症状を示す症状があれば手技療法の範疇にはなりません。注1
しかし神経根症状にみる麻痺ではなく痛みを主訴とする症状は狭窄による症状ではない可能性が高く、手技療法にも良く反応するのです。また画像診断だけで馬尾型や混合性の疑いがあったとしても麻痺性の症状がない痛みやシビレを主訴とするならば手技療法で対応が可能です。それは画像所見と症状が一致しない場合、狭窄部位が痛みの原因ではない事の方が多いからです。ですから麻痺症状が無い物は手術しても良い結果にはならないという事にもなります。それは狭窄部位が根本原因では無いことが多いからです。

注1・腰部椎間板ヘルニアは保存療法が主ですが、馬尾症候群(馬尾神経の圧迫)の様な膀胱直腸障害の麻痺症状があるものは早期
の手術(48時間以内)が絶対適応となる。麻痺を呈する本当の神経圧迫

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殆んど何も分かっていない痛みの原因

殆んど分かっていない痛みの原因

腰部脊柱管狭窄症の痛みの原因や治療法は雑誌やメディアなどでいろいろ紹介されていますのでご存知の方も多いと思われます。医療機関での治療法は疼痛緩和の対症療法や手術治療が行われています。当然狭窄症がどの様な原因で痛みが発生しているかわかって治療しているとお考えでしょう。

しかし実際は2011年に腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン(日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会監修)には「現在のところ明確な病態が不明であり、原因が明確になれば将来再分類される可能性がある」また同年の北米脊椎学会の腰部脊柱管狭窄症の診療ガイドラインにおいても同様な見解が示されています。

狭窄症は世界的にみてもハッキリした痛みの原因は未だ不明という事です。また腰部脊柱管狭窄症は、いまだに確立された診断基準もなく、病院によって手術をするか、しないかは見解の相違があり、整形外科医の間でも十分なコンセンサス(意見の一致)が得られていないのです。

間欠性跛行(歩くと痛む)

間欠性跛行(かんけつせいはこう)とは歩行していると徐々に痛みやシビレが強くなり、前こごみや腰掛けて休むと回復し、再び歩行すると痛みだし休み休みでないと歩行ができなくなる症状のことです。また歩くと痛みがでるのですが自転車での走行では足に痛みがでません。

これらの症状は
腰部脊柱管狭窄症でみられる最も特徴的な症状であり重要な所見となっています。間欠性跛行が起きるのは起立姿勢や歩行時に腰を伸ばした姿勢が狭窄部を強くし神経や血管を圧迫するためと言われていますが、間欠性跛行がなぜ起きるのかも実はまだ分かっていないのです。

狭窄症と間違われ易い血管性間欠性跛行

間欠性跛行は狭窄症だけに起こる症状では無く、動脈硬化により血管が詰まり(閉塞)その先に血流が十分にいかなくなり虚血性疼痛が起きる閉塞性動脈硬化症(ASO)があります。その閉塞部位が足の大腿動脈に起きれば、狭窄症と同じように間欠性跛行が起きます。閉塞性動脈硬化症で起きるものを血管性間欠性跛行と呼びます。痛みは狭窄症と似ているため間違われる事もあるのです。

鑑別診断としては狭窄症と違い、自転車に乗っても痛みがでる、歩行姿勢と無関係に痛みを生じ、休息時の姿勢もとくに関係しません(立った状態でも休息すれば痛みが和らぐ)。また足の動脈の触知不良、皮膚の色調不良、足の冷感が見られます。閉塞性動脈硬化症は痛みは筋肉にでますが、これは筋肉の部分的な血流障害では無く、栄養や酸素供給のもととなる動脈が原因であるため血管外科や循環器内科への受診が必要になります。

血流障害は上記の様な症状であり狭窄症には当てはまりません。狭窄症で起きる血流障害は筋の部分的な緊張によるもので、筋筋膜の異常に伴うものであり血管自体の原因による絞扼の痛みでは無いと、当院は考えます。

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時と伴に変わる治療法

ひと昔まえは腰部椎間板ヘルニアの治療は手術が主とされていました。しかし現在ヘルニアは自然に無くなることもわかり保存療法で9割は治ると言われています。またヘルニアは腰痛のない健常者を検査しても八割もの人にヘルニアが見つかる事でも、ヘルニア自体が痛みの原因ではないとも言われ初めています。

そして唯一ヘルニアに対して手術適応なのが膀胱直腸障害のような麻痺性の馬尾症候群といわれる物でヘルニア全体の2%(実際にはもっと少ないと思われる)にあたるとされています。このことからも本当の神経絞扼障害は痛みやシビレではない事が窺い知れます。ヘルニア≠痛み・シビレ≠手術 ヘルニア=麻痺(馬尾症候群)=手術と言うのが現在の常識となります。

ヘルニアと狭窄症の類似点

検査により狭窄部位が見つかったとしても単純に狭窄部位=痛み・シビレ=狭窄症という事にはなりません。脊柱管狭窄症もヘルニアと同様に、下記のWHO文書にある様に狭窄部位は高齢者には非常にありふれたものであり、手術をしたところで良い結果にはならない。と書かれています

この文書からもお分かりのように、殆んどの脊柱管狭窄やヘルニアは痛みの原因では無いという事です。もし手術が選択肢となるのなら、痛みやシビレを主訴とするものではなくヘルニアと同様に麻痺症状があるもの、ということです。ヘルニアの場合もそうですが神経の圧迫による症状は痛みやシビレでは無く麻痺症状だからです。

この様に脊柱管狭窄症もヘルニヤと同じ様に単に痛みやシビレを狭窄部位と結び付けたに過ぎず、狭窄自体が原因では無いと言う道筋を辿る事になるのではと考えられます。

Low back pain WHO(世界保健機構)文書 2003年によると

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄は、老人には非常にありふれており、画像診断でほとんどの老人に認められるが、たいていの場合には、それは腰痛の原因ではない。それは、しばしば手術を行う根拠にされるが、その手術が成功して最終的に腰痛が軽快することはまれである。とされています。

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本当に狭窄が問題なのか?(当院の見解)

腰部脊柱管狭窄症は歩行時や立ち姿勢により、足の痛みやシビレがでます。そして腰を丸めて座ったり、自転車での走行時などは痛みがでません。それらの姿勢や動作で痛みが和らいだり、痛みがでないのは腰を丸めることにより狭窄部位の圧迫が解放されるためとなっていますが本当にそうなのでしょうか?

当院ではこれらの疼痛緩和姿勢は狭窄部位が広がることで痛みが緩和されるのでは無いと考えます。それは実際の腰部前屈といわれる姿勢が実際に前屈姿位となっていないにも関わらず疼痛が緩和している矛盾した場面があるからです。

当院では痛みの原因は身体の筋膜の後方ライン上の姿勢筋を中心とした筋膜連鎖による筋筋膜性疼痛と考えます。以下の文は当院の見解を中心としたものでありますが、皆様の症状のご参考になれば幸いです。

問題は主要姿勢筋の筋筋膜にある

主要姿勢筋(右図)は身体の直立姿勢を維持する働きをしています。人の身体の重心線は側方から見た場合やや前方に位置し、このままですと前方に身体が倒れてしまいます。それを防ぐのが主要姿勢筋です。下半身の姿勢筋は大臀筋・ハムストリング・下腿三頭筋です。この姿勢筋群は立っている姿勢では常に緊張状態を保っているのです。


腰部脊柱管狭窄症の痛みの主な症状として痛む筋群はこの主要姿勢筋です。狭窄症は脊柱管の圧迫による症状が原因とされていますが当院では、これら姿勢筋群の筋筋膜を痛みの原因と考えます。それは狭窄症の症状が主に歩行や姿勢によって痛みの出現、消失がみられる筋運動による所が多い疾患だからです。

しゃがみ込んだり、座るとなぜ痛みが楽になるか?

狭窄症の症状は歩いていると足や臀部が痛くなり、座ったり、しゃがみ込むと痛みが取れるというものです。一般的な考えでは前に腰部を曲げる(前屈)と脊柱管内の狭窄部が広がる方向になるため、痛みが緩和されるということですが、本当にそうなのでしょうか?

当院では立位姿勢で緊張する姿勢筋である足の後方筋群が座ったり屈むことで緊張状態が取れるためと考えます。それは必ずしも腰を前屈させなくても座っているだけで痛みが取れる方も多く、中には正座をしていても痛みが取れる方もいます。

腰を前方に曲げなければ圧迫が取れないのなら、普通の姿勢で座っている時も常に圧迫され痛みが出る筈です。そうならないのは圧迫では無く立位姿勢での主に主要姿勢筋の異常緊張が原因だからです。

歩くと痛むのになぜ自転車では痛まないのか?

医学書に書かれているような自転車での乗車姿勢は前屈姿位にはならない。

歩くと数十メートルも痛みで歩けないのに自転車では何処までも走っていける又は痛みが軽減される。これも狭窄症の特徴です。

医学書などによれば自転車に乗ると身体は前傾し腰が前屈し圧迫が解除されるからという事ですが、これも本当なのでしょうか?
ある程度の年配の方が自転車に乗っている姿を想像すると何となく腰を丸めている様に想像されるでしょうが実際は自転車に乗りながら腰を丸めて乗っている方は殆んどいません。

もし腰や背中が丸まった乗り方をしている方がいたら、その方は立位であっても腰や背中が丸まった傾向があるかたです。好発年齢が50歳から80歳と言う事で皆さんは高齢者の印象をお持ちですが、50歳から60歳代の方が前傾姿勢で腰を丸めて運転することなど余りありません。自転車の運転は殆んどの場合、写真の様に腰の骨は真っ直ぐやや前傾であり前傾角度を作るのは股関節です。脊柱管狭窄症のかたが人と違った特別な乗り方をしている訳でもありません。それではなぜ自転車では殆んどの場合痛みが出ないのでしょう。

自転車と歩くのとでは全く違う

先程から言う主要姿勢筋は立った姿勢では前方への転倒を防ぐために常に緊張することに成ります。特に歩行時は身体の重心線がさらに前方に移動するため後方の姿勢筋はより緊張を強いられ原因となる姿勢筋が痛みを発生させると考えられます。

しかし自転車に乗れば座る事により足の姿勢筋は緊張しません。前方の前倒れは起立筋やハンドルを握る事で腕で支えることに成ります。ですが自転車を漕ぐときに足の筋肉を使うため姿勢筋が原因なら痛みが出るはずだと思われるかもしれません。しかし歩く事と自転車を漕ぐことでは筋肉の使われ方が全く違うのです。

狭窄症の痛みの症状として多いふくらはぎ(下腿三頭筋)ですが、これは足首の運動を主に行なう筋肉で歩行時はかなり使われる筋肉です。しかし自転車を漕ぐ時はほとんど使われないのです。自転車のペダルはおおよそ地面と水平にたもたれ踏み込む力で進むため蹴り足の様な足首を使う動作は無いのです。そのためふくらはぎの筋肉は負担が殆んど掛からないのです。また歩く時の様な後方に足が残る動作が無いためお尻の大臀筋やハムストリングも余り緊張しないのです。
立ち漕ぎでもしないかぎり姿勢筋の筋運動はあまりなく主役は太ももの前部の筋肉の大腿四頭筋になります。坂道などを自転車で昇れば太ももの前側がパンパンになるのはそのためです。自転車に乗って痛くないのは腰が丸まり圧迫がされなくなるのではなく、問題のある筋肉を使わずに漕げるからなのです。

電車の車中や台所の立位姿勢で痛みがでやすい訳

前こごみが多い台所仕事なのになぜか痛みが強くなる。先程の自転車の走行より前屈姿勢は取りやすい筈だが?

狭窄症の症状は電車乗車中の立位姿勢や台所の立ち仕事などでも痛みが出たり、痛みが強くなる人が多いと言われています。圧迫症状なら同じ起立姿勢なら場面により痛みが変わらないと思うのですが何かおかしいですよね?

今までの所を読まれた方ならだいたい察しが付くのでは無いでしょうか。答えは簡単で電車の中は揺れが強く転倒しない様に姿勢筋群をより緊張させなければならないためです。揺れる電車で足を踏ん張ればふくらはぎが痛くなる経験をされた方もいるのではないでしょうか?

また台所仕事ですが、料理中に背中を伸ばして料理をしている人は余りいないのではないでしょうか?どちらかというと包丁での刻みものや洗い物など身体を前方に曲げた姿勢が多いのではないでしょうか?それなのに台所仕事で痛みを誘発するのはチョットつじつまが合わないような気がします。
 

なぜ台所仕事で痛みが誘発されるのか、それは台所仕事の姿勢にあります。
台所仕事では流し台に身を乗り出す姿勢になりがちです。また下半身は扉などがあるため膝があたり曲げずらく上半身の重心位置はより前方に偏ります。そのことで前方重心を支えるため後方の姿勢筋が長い時間、緊張状態となり痛みを誘発するのです。そして流し台などに肘や腕でもたれ掛ればそれが支えとなり一時的に緊張状態がとけ痛みが楽になることがあるのです。

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なぜ歩くと痛くなるのか

前方に転倒しない様に伸ばされながら筋収縮する遠心性収縮(赤の楕円は下腿三頭筋)

右の写真は歩行時の左足が骨盤と一直線上(立脚中期)になってから右足が左足を追い越し踵が接地する直前までの左足の動きと下腿三頭筋(ふくらはぎ)の関係を表したものです。
両足が重なった状態から右足が前方に振り出され踵接地する直前の間、左足は身体が前方に倒れ込まない様に下腿三頭筋で調整します。

この時、下腿三頭筋は遠心性収縮といい伸ばされながら収縮する筋運動をします。チョット分かりずらいと思いますが、手にダンベルを持ち肘を曲げて引き寄せる運動を求心性収縮と言い、一般的な筋収縮運動です。一方、遠心性収縮は引き寄せたダンベルを肘をゆっくり伸ばし元にもどす運動で、その時に筋肉は伸ばしながら筋収縮させることで降ろす速度をコントロールしています。それを遠心性収縮と言います。

これと同じことが歩行時に行なわれているのです。歩行時は通常の立位より重心線は前方になるため前に転倒しないように下腿三頭筋の遠心性収縮よってコントロールされているのです。しかしこの遠心性収縮は求心性収縮よりも強い負荷運動となるのです。そのため問題のある姿勢筋(筋膜などの伸張性の低下やトリガーポイントなど)はこの強い負荷運動により痛みを誘発するのです。

カートを押して歩いても痛まない訳

前傾姿勢になっているが曲げているのは股関節で腰部は前屈位にはなっていない。

カートを押して歩くと痛まなかったり痛みが軽減されるのは下腿三頭筋などの姿勢筋に遠心性収縮が起きづらいからです。それはカートを持つことで身体の支えができ姿勢筋の緊張はゆるみ、また前傾姿勢になったぶん膝も軽度屈曲するため膝の関節は最大伸展位にはならない事などにより遠心性収縮が起こりずらい状態になるためです。これは自転車でも同じ事が言えます。写真の様に股関節と膝を曲げ身体を前傾させて、ややお尻を突き出してカートを押す高齢の方が多いのですが、腰自体は前屈位にはなっていません(腰部を丸めて押す人は立った姿勢でも腰が丸まっている人が殆んど)。腰部が前屈位になっていないのに痛みがでないのは姿勢筋に負担が掛からないからなのです。狭窄が原因ならこの姿勢では痛みを誘発し歩けないはずです。

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なぜ痛みが広がるのか?(筋膜連鎖)

身体の後方を通る筋膜の後方ラインは姿勢筋とほぼ同じ経路を通る

図は筋膜の後方のラインを表したものです。解剖学などでは筋肉を一つ一つに分けて個別の物としています。しかし実際は筋膜によりすべてが繋がれ張力による連続体として機能し身体全体を連動させ影響を及ぼしています。そしてこの筋膜は機能別ラインとして複数に分類することができます。そしてライン状の何処かに異常があればそのライン上の遠隔部位にも影響を及ぼす事になるのです。

図の筋膜ラインは後方から身体を支えるラインで後方の姿勢筋とおおよそ一致しています。この後方ラインは加齢による重心線の前方移動による前倒れを防ぐためライン上の筋筋膜は緊張を強いられる事になるのです。

 

狭窄症の痛みは様々な痛みの発症パターンがあり、腰痛から始まる物、臀部または足から痛みが始まるものなど人により違います。しかし一見それらは別々の物に感じられますが、筋膜のラインから見ればそれらの症状は同一経路として繋がっているのです。そのため痛みが腰や臀部または下腿三頭筋で発生しても、筋筋膜の緊張は張力によりライン領域に連鎖反応として痛みが広がる事になるのです。この痛みの広がりを筋膜連鎖と呼びます。
痛みを主訴とする脊柱管狭窄症のほとんどのケースは狭窄とは関係なく、筋筋膜を異常とした筋膜連鎖にによる症状なのです。

主要姿勢筋に発生したトリガーポイントと筋膜連鎖

トリガーポイント 筋膜連鎖

これらは姿勢筋の筋膜の異常により発生したトリガーポイントとそれに伴う関連痛です。狭窄症の様な症状は何処から痛みだすかは決まりは無く、初めは臀部が痛いこともあれば、腓腹筋が痛いこともあります。しかし時間経過と伴に筋膜のライン上(この場合は後方ライン)に痛みが連鎖することは良くある事なのです。この図は定型的なものですが、腰や太ももの外側、足のスネ側または背部にまで痛みが及ぶパターンもあります。これらの症状は筋筋膜性疼痛のため腰の狭窄部を中心とした治療法では改善されません。狭窄症と診断されたとしても、痛みが主症状の場合、画像診断とは関係なく筋筋膜の異常による疼痛症状の方が遥かに多いのです。

なぜ高齢の方に多いのか

姿勢筋である下肢の後方筋群の異常がなぜ年齢と伴に出現するのか、いくつかの要因となるものを上げてみます。

  • 形態的変化による重心線の前方移動や重心位置の高位によるバランス機構の変化による姿勢筋や筋膜の張力に及ぼす影響
  • 身体の水分量の生理的な低下による筋筋膜の伸張性の低下
  • 不動(動かさない、余り歩かない、同姿勢)による筋内結合組織(筋膜の肥厚)の増加による筋組織の線維化による伸張性の低下
  • コラーゲン線維が不規則に生成され筋筋膜の伸張性の低下がおきる老化架橋
  • 筋力の低下

この様に重心位置の変化による下肢筋群の持続的な緊張や筋筋膜の伸張性低下による筋運動の活動低下が起きることに伴う血流障害からの筋スパズム、筋膜の癒着やトリガーポイント形成などにより痛みが発生すると考えられます。

 

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